ボクシング採点基準

ボクシング採点基準

●基本

・世界戦は12ラウンドで行われる。

・1ラウンドごとに優勢な方を10点とし、劣勢な方を減点する。(10POINT MUST SYSTEM)

・僅差であっても各ラウンドなるべく優劣を付ける。

●採点基準

・世界戦の採点は、大まかにいって下記の4項目で判断される。

・採点に占める割合は、下記1が最も大きく234と続く。

・基本的に1~4のいずれかの基準で差がある場合10対9とする。

1.有効なクリーンヒット

相手の急所に有効なパンチをヒットさせ、よりダメージを与えた方を優勢とする。

2.アグレッシブ(有効な攻勢)

より攻撃的である方を優勢とする。ただし単なる突進は攻勢とは認められない。

3.リングジェネラルシップ(主導権支配)

巧みな試合運びによって主導権を支配している方を優勢とする。

4.ディフェンス(防御技術)

相手の攻撃を無効にする防御に長ける方を優勢とする。

ただし攻撃と結びつかない単なる防御は評価しない。

※その他

・ノックダウン、またはそれに近い状態で優勢な場合は10対8とする。

・2度のノックダウンや一方がグロッキーでノックアウト寸前の圧倒的優勢の場合は10対7とする。

集中カ

 採点に徹底的に集中することが採点の基本中の基本である。ボクシングの試合の採点はどんなスポーツの採点より難しい。毎ラウンド、3分間、完全に集中することが要求される。
 プロ・ボクシングのジャッジは2人のボクサー(および計4つのグローブ)を注意深く観察せねばならない。同時に、手数の総数、有効打とミスブローの数、パンチの質(パワー、強弱)、ポクサーが受けたダメージ、ポクサーの動きおよび調子を測らねばならない。ボクシングでは多くのことが同時に起こる。リング中の目まぐるしい動きを観察しつつ、10点法を運用せねぱならない。たやすい仕事ではない。10点法の使い方を深く理解するため、試合を採点する基本を身につけねばならない。
 まずボクシングというスポーツを理解する必要がある。研究心を持って数多くの試合を見れば、ボクシングの理解が深まる。リングで何が起こるかに注目する。それは、クリーンヒット、有効な攻勢、リングージェネラルシップ、防御、およびボクサーが見せる技術全般などである。先入観や偏見を持たず客観的に見なければならない。そんな先入観は潜在意識からくるものである。
 たとえば、「挑戦者はチャンピオンからタイトルを明白に奪わねばならない」という誤った考えに影響を受け、僅差のラウンドはチャンピオンに与えてしまうことである。これは公平でなく、チャンピオンに不公平なアドバンテージ(有利さ)をもたらすことになる。ゴングが鳴れば、チャンピオンも挑戦者も同じ資格を持つ。各ラウンドは本書の主題である採点基準を使って採点されねばならない。重要なのは、
ポクサーの名声、人種、国籍により採点が影響を受けてはならないことだ。
 試合の採点をしようと思ったら、注意が散漫になることは禁物である。たとえば、ジャッジは観客の声、コーナーの叫び声、カメラマンの立てる音により注意を妨げられてはならない。これと同じことが、あなたが家でテレビを見て採点をするときにもいえる。冷蔵庫にものを取りに立ち上がったり、同じ部屋の誰かに話しかけたり、採点の邪魔になるいかなる外乱にも惑わされてはならない。テレビ観戦の楽しみを奪おうというのではない。真剣に試合の採点をしようと思うなら、守るべき条件がある。目的を達成しようとすれば、犠牲をはらわねばならない。
 たとえ家でテレビを見て採点していてもその採点を信頼のおけるものにするには、つぎのルールを守らねばならない。集中力を最大限に発揮することだ。この集中力がなければ、あなたの採点は欠陥商品である。ものごとに集中するのはある人にはやさしいが、他の人には努力して訓練せねば集中できない。ゴングが鳴りラウンドが始まれば、続く3分間に意識を集中し、ラウンド終了のゴングが鳴るまでリング内のどんな小さな動きも注意深く見つめねばならない。視聴者の集中力を阻害し、リングのファイト以外の方向へ話をそらすような解説者の弊害を除くため、テレビの音声を下げたくなるかもしれない。ボクサーたちが真剣に戦っているのにリングサイドでよもやま話をする解説者もいる。リング内のファイトと関係のない話をしているときにラウンド終了のゴングが鳴り、そこでどちらのボクサーがそのラウンドを取ったかを解説者がいうのを聞くことが多い。これはそのラウンドが一方的だったら許される。
 だがもし競った内容のラウンドで、解説者がポイントを決する重要なアクションを見落としたら、そのTV採点は正しくなくなる。時に解説者たちにはテレビ局から指示された台本があるのだろう。これによりすべてのテレビ解説者を批判するつもりはなく、すぐれた解説をしている人を攻撃する意図はない。実際、試合の採点をするときテレピ解説者の採点は公式のものではないが、つねに正しい採点をする解説者もいる。
 私が強調するのは、リング内のアクションに対する、脇目もふらぬ集中カである。

視覚の集中

 眼を両選手の真ん中に置くといい。両者の動きを均等に見ることができる。一方のボクサーだけを見つめることを避けよ。そうすると、他方のボクサーの動きを見損うだろう。

ジャッジは試合で何を見るか

 ジャッジが各ラウンド、ひいては試合を採点するにあたり、3つの基本的項目がある。
 1.クリーンヒット、有効な攻勢
 2.リング・ジェネラルシップ
 3.防御
 各項目を重要な順に説明しよう。

クリーンヒット、有効な攻勢

 多くの場合、有効な攻勢をとりクリーンヒットをきめたボクサーが試合に勝つ。ボクシングは格闘競技だ。プロボクサーが目指すのは、相手より多くの有効打を当て、相手のパンチをできるだけ多くはずすことである。これが勝利へのカギだ。攻勢をとり、主導権を支配し、有効なクリーンヒットを当てたボクサーが勝利への道を歩むことになる。
ポクシングは格闘技だから、確かに防御は重要だ
が、攻撃、すなわちクリーンヒツト(clean punch-ing)と有効な攻勢(effective aggressiveness)こそが試合に勝つ要素である。ノックアウトはプロボクサーの究極の成果である。ノックダウンには重みがある。ノックダウンは、攻勢をとりクリーンヒットをコンビネーションで打ち込めるボクサーにより生み出される。単に前進するだけでは不充分だ。
 多くの試合で、「闘牛と闘牛士」の対決と呼ばれるような組合わせがある。「闘牛」とは前進を続ける選手を意味する。一方、「闘牛士」とは「闘牛」の前進に対してバックステップやサイドステップをする選手をいう。しかし、前進する選手が有効打をきめられなかったり、クリーンヒットを当てられなかった場合、優勢とはならない。バックステッブやサイドステップしている選手でも、有効打をきめ、強
くて正確なジャブを当て、ポイントを重ねることもあり得る。
 「有効な攻勢」とは必ずしもボクサーが前進せねばならぬ、と意昧するものではない。優れたカウンターパンチャーは後退しながらも有効打をきめ、前進はするが有効打をきめられない選手に対してポイントをあげることがある。「有効な攻勢」に対する解釈を誤ると、採点は誤ったものになる。
 結論として動く方向が前であろうが後であろうが、主導権を握り、数(手数)と質(パワー)両面においてクリーンヒツトをきめた選手がそのラウンドを取る。

さらにクリーンヒットについて

 クリーンヒットはつぎの2つの理由により重要な採点基準である。
 1.攻勢が有効であるためには、パンチは目標に正確に当たりダメージを与えねばならない。たとえば、ボディヘのクリーンヒットは試合の後半まで来ないと分からないようなダメージを与える。採点をするとき、ボディヘのクリーンヒットは、顔面や頭部へのパンチほど目覚ましくないので時に見落とされがちだ。これは経験の乏しい、正しい訓練を受けていないジャッジが犯しがちな見落としである。強い正確なジャブは相手の顔に切り傷や腫れをもたらすようなダメージを与える。ジャブは非常に有効な武器であり、ラウンド中、採点に反映されねばならない。リング・ジェネラルシップに触れるとき、ジャブについて述べ、ジャブが試合を支配する効果についても語るつもりだ。左フックや右ストレートのクリーンヒットは相手をダウンさせるような速効性のダメージを与える。注目すべきは、顔面やボディに正確に当たり相手にダメージを与えるパンチである。時に肩や腕に当たったパンチでも、それが相手にダメージを与えれば、私は有効打と評価することがある(一方、もしボクサーが肩や腕を防御のために使いダメージを受けなければ、相手側の有効打とはならない)。
 2.クリーンヒットとは、ルールに従い相手の体の許された部分(アゴ、顔面、ミゾオチ、心臓など)を打ったパンチである。一方、ローブロー、オープンブロー、後頭部へのパンチ、ホールドしながらのパンチはポイントにならない。
 テレビで試合を見るのとリングサイドに座って生で観戦するのが違うことには、明らかな理由がある。時にテレビを見てパンチの効果を測るのが難しいことがある。ボクシングの試合をテレビで放送するとき、失われるものがあるとすれば、それはパンチのインパクト(衝撃)である。ポクシング放送の多くの部分がカメラ・アングルとライティング(照明)に左右される。私はしばしば生で観戦した試合をビデオで見直して、有効打のインパクトが映っていないことに気づく。家でテレビ観戦し採点する場合、この欠陥を克服するには、テレビに近づき集中する必要がある。ここで再び採点をするときの集中力の重要性を強調したい。

リング・ジェネラルシップ

 リング・ジェネラルシップはリング中のアクションを支配するためにパンチのパワーより技術を使うボクサーにあてはまる。そんな選手は考えながら戦うボクサーである。彼は戦うとき頭を便い、相手をくずすためにクレバーさ、敏捷さ、フェイントを使う。フツトワークを使い、相手の作戦を乱す。巧妙なフェイントで、効果的なコンビネーション・ブローを打ち込めるよう相手を誘い込む。攻撃的な選手を空回りさせる。相手を打撃戦に巻き込む。いい左ジャブ(サウスポーの場合、右ジャブ)を持つボクサーはリング・ジェネラルシップを活用するため、ジャブを戦術の一部として用いる。いいジャブを出せば、コンビネーション・ブローや追撃につながる。両選手を見れば、どちらが作戦を練り、考えながら戦い、状況を冷静に把握しているかが分かるはずだ。「試合を支配していたから、このラウンドは彼のものだ」
という言葉をよく聞くが、これはその選手が巧妙に作戦を展開し、効果的なパンチを出していた、ということだ。リング・ジェネラルシップを用いると僅差の回を取れる。頭脳的に戦う選手は有利だ。

防御

 ボクシングは格闘競技だから、相手より効果的な攻撃をした選手にラウンドを与える。防御がよいからといって、それは効果的な攻撃に優るものではない。しかし、防御の重要性を過小評価してはならない。よい防御とはリング・ジェネラルシップの条件のひとつだ。防御がよいと、不要なダメージを避けられ、作戦通り戦うことができる。よくパンチを食う選手はスタミナがきれる。いい選手は防御がよい。防御のよい選手はパンチをよく食う選手より寿命が長い。体にダメージをためると、キャリアが短くなる。採点上、防御の効果を考えるとき、よい防御とはホールド、クリンチ、足を使った逃げまくりのことではない。ホールドは、相手の攻撃を避ける最後の手段だ。ホールドやクリンチを繰り返せば、レフェリーは減点をする。
 よい防御とは何か?それは、ブロック、ボビング(連続的ダッキング)、ウィービング、フットワーク、サイドステップで相手のパンチをはずすことだ。両選手とも攻撃面で差のない接近した内容のラウンドでは、防御のよい方にポイントが与えられる。

要約

 採点上、以上3つの根本的基準の中で、クリーンヒットと有効な攻勢がカギとなる。そのラウンドに他の何が起ころうと、強いクリーンヒットを当て、手を出し、試合を支配した方の選手がポイントを取る。相手を支配する巧妙なリング・ジェネラルシップも重要だ。よい選手はクリーンヒット、効果的攻勢、リング・ジェネラルシップを兼備している。もしこの3つの基準でラウンドの勝者を決められぬ場合、どちらが防御がよかったかで差をつける。

パンチ:質、パワー、および手数

 採点上、最も重きを置くのはパンチだ。ジャッジは先に述べた採点基準により最後の判断をくだす前、パンチの質、パワー、手数を評価すべきだ。それは、パワーを込めた強いパンチと効果の薄い軽いパンチの判別である。
 パワー・パンチ(強打)とは、チン、顔面、ボディに当たった強いパンチである。そのダメージはすぐ現れ、そのため相手は弱る。パワー.パンチとは、ストレート、フック、アッパーカット、あるいは強いジャブである。回転の速い非常に軽いパンチは、ピティ・パット・パンチ(心臓の鼓動のようにパタパタ打つ手打ちのパンチ、訳者注)と呼ばれる。
 よいジャッジはパンチの質(パワー)と量(手数)を評価し、それに応じて採点する。たとえば、打ち合いで一方の選手が3発の強いパンチを出し、他方が6発の軽いパンチを出したとしよう、ジャッジの判断で、その3発の強打の方が6発の軽打より相手にダメージを与えたと見た場合、そのジャッジは強打者の方にポイントを与える。痛烈なノックダウンは相手の数多い軽打をしのぐ。
 強打が軽打を相殺する割合、あるいはその逆は、机上グラフなどで表現できない。どの連打も別の連打と同じではない。白熱の打撃戦で、各選手が出したパンチ、それが何発当たり何発ミスしたかをジャッジが数えるのは容易ではない。選手が数秒間に数多くのパンチを出した場合、ジャッジは手数よりその有効度を見るべきだ。
 ジャッジがクリーンヒットとミスブローの数をカウントし、そのパンチの効果を評価し、さらに試合に集中するのは難しい。打撃戦の場合、よいジャッジは経験によりパンチの数と質、その相殺を瞬間的に判断し、それにより採点することが多い。
 パンチの統計はテレビのボクシング番組でラウンドごとにデータが出て、それを解説者はラウンドの評価に利用する。このパンチの統計を振り返ってみよう。
 あるラウンドにおいて相手より多くのパンチを出し、ヒットさせた選手が普通(すべてではないが)ポイントを取る。経験のあるジャッジはパンチの数だけでなく質を考慮して採点する。試合全体で出したパンチの数が多いからといって、それが勝者を決めるとはかぎらない。その統計のパンチ数のうち大半がある一方的な1つか2つのラウンドに集中し、残りのラウンドは他方の選手が優位な場合もあり得る。パンチの統計は採点の資料にはなっても、効果的に採点するには経験にもとづいた主観的な判断が必要だ。結論として、パンチの統計データというものが正確かどうか、私は知らない。

採点のシステム

〈10点法〉

判定でもめる場合、ジャッジが10点法を使う採点基準に問題があることが多い。ジャッジあるいはテレビ観戦するファンが10点法の問題点を明確にする講習会に参加していない場合、彼らの採点に一貫性がなくなる。10点法を適用するとき、採点者がいかに採点に集中しているかも問題となる。集中力は重要だ。ジャッジが瞬間的にでも試合の動きから注意をそらした場合、そのラウンドの採点は台なしになる。
 第一に、10点法の概要を述べ、さらに重要な点を考えよう。
10点法で、あるラウンドの勝者は10点を取る。そのラウンドを失った選手は9点から6点をつけられる。ただし、10-6のラウンドはほとんど起こらない。10点を与えられるのは、パンチの質と数で優り、クリーンヒット、効果的な攻勢、リング・ジェネラルシップ、防御にもとづきラウンドを支配した選手だ。ノックダウンを食った選手、あるいは減点された選手は10点からポイントを引かれる。どのラウンドも違う。2人の選手が戦うときパンチの数や試合展開がラウンドごとに変わるのがポクシングの常識なので、どの2つのラウンドもそれが同一であることはない。これに留意し、10点法に注目し、そのラウンドに起こったことを採点に反映せねばならない。

試合を採点する

 あなたが試合を見て採点するとき、ほとんどすべてのラウンドは10-9となる。微妙な差から明白な差までは10-9である。10-9のラウンドで、試合展開が激しいことも停滞していることもあるだろう。一方がリードしたら他方が反撃して試合の流れが激しく変わったり、両者とも手を出さず試合の流れが停まってしまうこともあるだろう。試合のぺースいかんによらず、微妙な差であれ明白な差であれ差をつけた方の選手が10-9でラウンドを取る。
通常10-9をつける場合が分かったら、つぎにノックダウンの採点上の効果を考えよう。ボクシングにおけるノックダウンは野球におけるホームランのようなものだ。ノックダウンはまれにしか起こらないが、ノックダウンがあった場合、それは採点に大きな影響をおよぼす。ノックダウンは試合の流れを変える。ダメージがなさそうなノックダウンで、倒された選手がそれほど効いていないように見えても、その影響は残るものだ。それを過小評価してはいけない。
 最近の世界戦でつぎのようなことがあった。初回、挑戦者は「フラッシュ・ノックダウン」と呼ばれる軽いダウンを喫した。挑戦者はすぐ立ち上がり、8カウントのあともダメージはなさそうだった。ダウンの影響も見えず、挑戦者はその初回最後まで勇敢に戦った。挑戦者はそのあとのラウンドでさらにノックダウンを奪われ、最後は6回TKO負けで敗れた。試合後のインタビューで敗者は言った。「弁解はしない。相手はチャンピオンだ。初回につかまり、あのダウンから回復しなかった」。ダメージがなさそうに見えた初回のノックダウンが実は試合の流れを変えた例である。
 倒された選手は立ち上がり戦い続ける。何が起こったかが分からない。ただ本能にまかせて戦っている。そんなこともある。ノックダウンの影響で、ノックダウンの前後についてまったく記憶がない選手もいる。このように影響力のあるノックダウンを正当に評価するため、10-8をつけるべきだ。一方がノックダウンの前、試合を支配しており、ノックダウンのあと、回復してまた試合を支配するラウンドがたまにある。その場合、ノックダウンがあっても、10-8が10-9へと差がせばまる。ボクシングでは何が起こるか分からない。一方が圧倒的に他方を攻めダメージを与え、ノックアウト寸前に追い込みながら、軽いノックダウンを食ったとする。ダメージもなく、すぐ立ち上がり、8カウントを聞き、ラウンド終了までまた相手を攻めまくったとする。この場合、軽いダウンを食った方の選手が10-9でラウンドを取る。しかし、こんな状況が起こるのはきわめてまれだ。(訳者注、ここの説明は現行ルールではおかしい。軽いノックダウンでも、ノックダウンがあれば白動的に10-8をつけるのが原則で、倒された選手の反撃の程度いかんで10-9になることがあり、その反撃がさらに激しく効果的であれば10-10になることがあり得る。しかし、それが逆に10-9でたとえ軽くてもダウンを食った側の選手のラウンドになることはないのではないか)。
ノックダウンがあったラウンドはほとんど、約95パーセント、10-8と採点されるべきである。普通、ノックダウンを与えた選手は実際、そのラウンドを支配するものである。さらに、ノックダウンを与えたパンチは他方の選手の手数の多いパンチを相殺する。
 普通、あるラウンドにおいて一方の選手にノックダウンが2度起こった場合、10-7と採点する。試合にはいろんなケースがあり得る。ときに両選手が同じラウンドにダウンすることがある。そのラウンドが非常に接近した内容で、どちらも差がなく、両者のノックダウンのインパクト(衝撃)が同等であれば、採点は10-10となる。しかし、互いに1度のノックダウン応酬の場合でも、一方がラウンドに差(僅差あるいは明白な差)をつけていれば、10-9となるノックダウンは互いに相殺するからだ。ジャッジは試合内容を自分の経験と知識により評価し、それに従い採点せねばならない。
 採点技術をうまく使う例は、選手がラウンドを支配しながらノックダウンを奪っていない場合だ。その選手は相手をそのラウンド中、打ちまくり、ダメージを与え、ぐらつかせるが、ダウンは奪えなかったとする。このようなラウンドは10-8と採点されるべきだ。ジャッジはそのラウンドを10-8とつけることで、接近した内容のラウンドを10-9とつける場合の差との比較ができる。同じ理屈がスタンデ
ィング8カウントをとったラウンドにも適用できる(もしスタンディング8カウントが適用されるなら、一方がダメージを受け、明らかにぐらつき、しかしノックダウンは奪われない場合、レフェリーはスタンディング・カウントをとる)。
 他の採点法を思い出すとき、「ラウンド・システム」には、明らかに支配したりノックダウンを奪ったラウンドが最後の採点の集計のとき正当に評価されないという欠点がある(訳者注、ノックダウンを奪ったラウンドも単なるーラウンドとしてしか評価されないため)。10点法はラウンドの勝者を決め、取ったラウンドの「差の程度」を正当に反映する。10点法では、採点墓準に従い、イーブン(10-10)のラウンドを避けるべきだ。10-10をつけてはいけないというのではない。10-10とつけることが正当化される場合もある。しかし、それは非常にまれだ。

採点の変化を追え

 採点において一貫性を失わず混乱を避けるため、誰にも分かるよい方法がある。ゴングが鳴れば採点を始め、試合が継続するに従い、その展開に自分の採点を合わせ変化させることだ。ゴングが鳴れば、動きがある。たとえ1発か2発のパンチであろうと、ラウンドを取りつつある選手を見定め、心の中で10-9と記録する。その選手が試合を支配し、より有効なパンチを決め、ラウンドを取る場合、心中10-9とする。この瞬間的に変化する採点(runningscore)をラウンド中続ければ、もしラウンド中の採点の途中経過を訊かれても、すぐ答えられる。ラ
ウンド中、試合展開の二部始終を心中の採点に反映させる。ラウンド終了のゴングが鳴るや否や、あなたは自信を持ってスコアシートを差し出すことができる。もし座りなおしてラウンドを振り返れば、多分、試合の流れを忘れてしまう。私は接戦のとき各選手に(10-9のように、訳者注)採点の数字をダブらせ、試合展開によりそれを変化させる。これが自分
の集中力を最高水準に維持する方法だ。

ラウンドことの採点

 どの試合もラウンドごとに採点する。すなわち、、
(1)試合を振り返るな。試合を先読みするな。
(2)どの試合も4回戦なら4つの、6回戦なら6つの、8回戦なら8つの、10回戦なら10の、12回戦なら12の、独立した「1回戦」と考えよ。
(3)前のラウンドに何が起ころうと、各ラウンドは分離して判断されねばならない。
 各ラウンドを独立した単位として採点するのは非常に重要なことだ。例をあげる。10回戦で、選手「A」が2回と8回に選手「B」からノックダウンを奪うが、それ以外のラウンドはひとつも取っていないとしよう。選手「A」はその試合を96-92で負けたことになる。
ラウンド12345678910
選手「A」9 10 9 9 9 9 9 10 9 9=92
選手「B」10 8 10 10 10 10 10 8 10 10=96
もし選手「A」が2回、3回、8回と3度のノックダウンを奪いながら他の7回をすべて失ったとしたら、94-93でやはり負けだ。
ラウンド12345678910
選手「A」9 10 10 9 9 9 9 10 9 9=93
選手「B」10 8 8 10 10 10 10 8 10 10=94
どちらの場合も、選手「A」は2度あるいは3度のノックダウンを奪いながら、試合には負けたことになる。
 しかし、毎回採点をしないで観戦していた人の目には、ノックダウンを奪った選手「A」の勝ちに見える。この採点と印象の食い違いはたまにしか起こらないが、複数のノックダウンのため選手「A」が有利だと見た観客からジャッジはいわれなき批判を受けることがある。
 各ラウンドに注目せず自分の採点を記録しないならば、「目で採点せよ。心で採点するな」という格言通りになるだろう。言い換えれば、あなたは観察し、記録せねばならない。印象とか意見とかは必ずしも事実に即した採点と一致しない。
 同じ理屈が通じるいまひとつの状況がある。勝ち目がないアンダードッグ(負け犬)がミスマッチと思われた試合を観客が昂奮する接戦に持ち込んだが、最後には判定で敗れたとしよう。あなたが心で採点すれば、心情的には善戦した負け犬の勝ちとなるかもしれない。もし目で採点し、ラウンドごとに採点をしていけば、違った結果になるかもしれない。
 もうひとつ例をあげよう。選手「A」が10回戦で最初の6回か7回を取り、選手「B」が挽回し最後の3回を制したとしよう。採点をメモしない観客の目には、終盤の攻撃により選手「B」の勝ちに見えることがしばしばある。しかし、実際に採点を積み上げていけば、選手「A」が勝者だ。採点を記録しないファンは試合の前半に起こったことを忘れがちだ。

血、傷、コブの採点への影響

 経験のあるジャッジは選手が出血したり目が腫れたからといって、それに影響されはしない。たとえそのため傷ついた選手の方が不利に見えてもだ。その出血や腫れがパンチにより起こった場合だけ、その相手側の選手を有利とみなす。パンチあるいはバッティングのため出血した選手が、顔面血だらけになりながらも相手を打ち負かし、後続のラウンドを制して試合に勝つこともある。しかし、出血や目の腫れには潜在的な不利さがある。出血したり目が腫れた選手は作戦通りに戦えず、不利になり、それが試合結果に影響しがちだ。大事なのは、出血しようが、あざ(打撲傷)やコブができようが、それは採点には直接関係しないということだ。
 ジャッジはレフェリーを出し抜いてはいけない。レフェリーがノックダウンと判断したら、それはノックダウンとして採点されるべきだ。たとえば、あなたの目にはスリップダウンと映るのにレフェリーがノックダウンをとったとしよう。そんな場合、あなたの採点はノックダウンに適用される採点基準通りに採点すべきである。

反則

〈他の反則〉
エルボー(ヒジ)の使用
サミング(親指で相手の目を突く反則)
キドニー(腎臓)、あるいは背巾を打つこと
噛みつき、あるいは相手にツバを吐くこと
レフェリーが「ブレーク」を命じたとき打つこと
バックハンド・ブロー(グローブの背で打つパンチ)
ホールディング、あるいはホールディングしながら打つこと
足蹴り(キッキング)、あるいはヒザ蹴り(二ーイング)
ゴングのあとに打つこと
ロープをつかむこと
オープン・ブロー(グローブを開いて打つこと)
ダウンした相手を打つこと

ヘッドバット、バッティング
(訳者注、日本語では「ヘッドバット」は故意のバッティング、「バッティング」は偶然のバッティングのニュアンスがあるように思う。)

ラビットパンチ(後頭部を打つこと)

ローブロー (ベルトの下を打つこと)

反則による減点

 レフェリーが反則をおかした選手から減点を命じたときだけ、採点上、減点をする。ジャッジは自分の判断で反則のため減点してはならない。

ふたたび集中力について

 ふたたびラウンド中、タイムに従い「変化する採点「running score」を継続して追う場合、集中力を維持することが重要だ。採点についての考えを乱されぬためにだ。一旦、集中力を失い採点の思考が乱れると試合の流れに追いつけず、あなたのそのラウンドの採点は正しくなくなる。

〈復習〉
10点法
(1)「接近した」差から「明自な」差10-9
(2)ノックダウン1度10-8
(3)ノックダウン2度10-7
(4)ノックダウン3度10-6(非常にまれ)
(5)ノックダウンはないが3分間一方的10-8
(6)完全な互角皿10-10(非常にまれ)
 どの2つのラウンドも同一ではない。上記の採点は絶対だと杓子定規に考えず、試合展開しだいで調整すべきだ。先に述べた採点基準に従い、試合展開に沿ってその採点基準を当てはめれば、あなたの採点は一貫したものとなる。多くのラウンドを採点するほど、多くの試合を(非常に集中して)見るほど、あなたは採点をすることに慣れ、あなたの採点は首尾一貫したものになる。

総括

〈集中するために〉
(1)集中は信用できる採点の基礎である。
(2)毎ラウンド3分間フルに集中せよ。
(3)注意が散漫になるのを防ぐ方法
(a)試合の途中で冷蔵庫に立つな。
(b)一緒に試合を見ている人と話すな。
(C)テレビ解説者のコメントに惑わされるな。
(4)集中モードになれるよう訓練せよ。

〈公平であるために〉
(1)客観的であれ。
(2)フェア(公正、公平)であれ。
(3)人種、肌の色、宗教や信条を元に採点するな。
(4)試合地により採点が影響を受けるな。

〈ラウンド、すなわち試合を採点するための基礎的要素〉
1.クリーンヒツト、すなわち有効な攻勢
(a)ボクシングは格闘競技である。
(b)勝利へのカギは、前進、後退に関係なく、パワーを込めた正確な、有効なクリーンヒットである。
(C)有効打なく単に前に出るだけではポイントを取るのに充分ではない。
(d)後退しながら、あるいはサイドに動きながら決めた有効なカウンターパンチはポイントになる。
(e)選手の動きの方向にかかわらず、パワーを込め、手数の多いクリーンヒットを決めた方がそのラウンドを取るべきである。

☆クリーンヒットの2つの要素
①パンチが有効であるということは、それが目標に(訳者注、「急所に」といった方が正確な理解が得られる)
正確に当たりダメージを与えるということである。
・チンまたは顔面へのクリーンヒット。
・有効なボディブローを見逃してはいけない。
・強いジャブは有効な武器とみなされる。
・正確にヒットした左フック、あるいは右ストレート(サウスポーの場合、逆になる)は相手にダメージを与え、相手を弱らせるパンチである。
・究極のクリーンヒツトは「ノックダウン・パンチ」である。
②クリーンヒットはまたルールに従ったパンチである。
・相手の体の急所(顔面、アゴ、ミゾオチ、心臓部)へのパンチがポイントとなるパンチである。
・ローブロー、オープンブロー、後頭部あるいは背中へのパンチ、ホールドしながらのパンチはポイントとならず、反則である。

2.リング・ジェネラルシツプ
(a)選手がパンチのパワー以上に技術を使いリングの動きを支配すること。
(b)作戦を練り、敏捷さ、フェイント、フットワークを使い、相手を作戦通りに戦わせないこと。
(C)うまくテクニックを使い、有効な連打を決めるため相手の体勢をくずすこと。
(d)相手の武器を殺し、自分の技術を発揮できるよう試合を支配すること。

3.防御
(a)よい防御とは、ブロッキング、ボビング(連続的ダッキング)、ウィービング、フットワーク、サイドステップで相手のパンチをよけることである。
(b)よい防御とは、ホールド、クリンチ、逃げ回りではない。ホールドとクリンチを乱用すると、レフェリーの減点の対象になる。
(C)よい防御とは、不要な打撃を受けず、作戦通りに戦うことである。

〈パンチ:質(パワー)および量(手数)〉
(1)採点上最も重要なのは、選手が出したパンチである。
(2)パンチはパワーと手数で評価されるべきである。
(3)パワー・パンチ(強打)とは、チン、顔面、あるいはボディにヒットした強いパンチで、相手にダメージを与えたものである
(4)パワー・パンチとは、フック、および右ストレート(ときに「右クロス」と呼ばれるパンチも含む)である。
(5)アッパーカット、および強いジャブ。
(6)軽いパンチだが速射砲のように速い回転で放たれるパンチ。
(7)ジャッジは手数で劣るパワー・パンチが手数で優る軽いパンチをダメージの点で上回ったかどうか判断し、それに従い採点する。
(8)これはパワー・パンチが軽いパンチ何発に相当するかの比率を(その試合において、訳者注)決めることであり、それには集中力をフ
ルに発揮し、何度も訓練することが必要となる。
(9)クリーン・ノックダウンは軽いパンチによる連打を上回る。

採点法
〈10点法〉
(1)10点法の各要素を本能的に使えるよう機会あるごとに反復練習せよ。
(2)集中せよ。採点中、他のことに注意をそらすな。
(3)ラウンドの勝者には10点をつける。
(4)ラウンドの敗者には9点から6点(ただしまれ)までをつける。
(5)どの2つのラウンドも同じではない。ラウンドごとに試合展開を表すよう採点すべきである。
(6)ほとんどのラウンドは10-9である。
(7)ラウンドに僅差から明白な差をつけた場合、10-9である。
(8)これは差が僅差か明白な差かであれば、そのラウンドが両者激しく打ち合った場合にも停滞した場合にも適用される(要はそのラウン
ドにおける両者の差である、訳者注)。
(9)10-9の判断を明確にした上で、ノックダウンの採点への影響を考えよ。
(10)ノックダウンは野球におけるホームランのようなものである。ノックダウンをとった選手はそれに見合うポイントを受けるべきである。
(11)ノックダウンがー度あったラウンドは10-8である。
(12)ノックダウンされた選手が、ノックダウンの前まではラウンドを完企に支配し、ノックダウンのあとも反撃し支配していた場合、10-8は10-9にせばまる。しかし、これが起こるのは、まれである。
(13)同じラウンドに一方の選手が2度ノックダウンをした場合、そのインパクト(衝撃)を考慮し、10-7をつける。
(14)一方の選手が相手を支配し、痛めつけ、ぐらつかせた場合、たとえノックダウンがなくとも、10-8をつける。
(15)この一方が圧倒的な差をつけた場合に10-8をつけることから、一方がわずかな差をつけた場合、僅差であっても10-9をつける。
(16)レフェリーが「スタンディング・カウント」を取った場合も、同じ理屈が適用されるべきである。
(17)イーブン(10-10)のラウンドは、絶対にないとはいえない。すべての採点基準を使って差をつけようとしても差がつかず、イーブン(10
-10)となる場合もあり得る。ときにはイーブン(10-10)をつけることが正当化されるラウンドもあるが、それはごくまれである。

〈「試合の流れ」を追え〉
(ゴングが鳴り、ラウンドが始まったとき)
(1)両者の間でどんな動きがあろうと、あなたの採点を心の中ですぐ計算し始めよ。
(2)たとえまだ手数がすくなくとも一方の選手がパンチを出しリードしたら、心中、10-9と採点せよ。
(3)他方の選手が反撃し逆にリードを奪ったら、心中、その他方の選手の方に10-9と採点せよ。
(4)そのポイントをリードした選手がラウンドを支配し続けたら、心中の採点を10-9とし続けよ。
(5)瞬間ごとに「変化する採点running score」をラウンド中、続け、それをリングの試合展開に応じて調整せよ。
(6)ラウンドの途中いつでも、あるいはゴングがなりラウンドが終わった瞬間でも、ただちにあなたは自分の採点を出せるようにせよ。
(7)あなたが採点のことを考えているのを乱されぬよう、集中力の水準を保ち、集中を邪魔するいかなる外乱も排除すべきである。この外乱が起こると、ラウンドの流れを追うことにもどるのが非常に困難になる。
(8)息をもつかせぬ一進一退の競ったラウンドで集中力を乱したら、そのジャッジの採点は破滅だ。

〈試合をラウンドことに採点〉
(1)各ラウンドは独立したイベント(訳者注、独立した「採点単位」のこと)として採点せよ。
(2)試合を振り返るな。試合を先読みするな。
(3)銘記せよ。どの2つのラウンドも同じではない。
(4)目で採点せよ。心で採点するな。
 できるだけ多くのラウンドを採点せよ。採点したラウンドが多いほど、見た試合が多いほど、採点の経験が増し、あなたの採点は首尾一貫したものになる。

スコアカード

 次々頁のスコアカードによりあなたはラウンドごとの採点ができる。反則による減点(レフェリーだけが減点を命ずることができる)を含み、試合の最終的な採点の総計が出せる。
 このスコアカードはリングサイドで採点するジャッジが使うものとは違う。ジャッジはラウンドごとの採点をラウンド別に独立したスコアカードに書き、レフェリーがそれを集め、コミッションに手渡し、そこでラウンドごとに集計する。ジャッジがラウンド別のスコアカードを自ら試合終了まで持つことはあまりない。各ラウンド終了後、レフェリーに手渡すのが通例だ。
 リングサイドのジャッジがスコアカードに採点を書き込むとき、許されぬ行為(前のラウンドのスコアの書き直し、訳者注)をすると非難されることがしばしばある。だが、それは誤解だ。ジャッジは前のラウンドの採点でミスをし、試合が進むに従いラウンドごとの採点を変更したり、他の疑わしい行為をすると非難されることがある。だが、現行のシステムではそのようなことは不可能だ。
 ゴングが鳴りあるラウンドが終わる。ジャッジはスコアカードにたとえば10-9のように採点を書き、ただちにそれをレフェリーに手渡す。その時点からそのスコアカードはジャッジの手元を離れる。ジャッジは一旦手渡したスコアカードを見ることも訂正することもできない。ジャッジ3名のラウンドことの採点は、コミッションあるいは認定団体の立会人によりスコアシート(採点表)に書き込まれ集計され
る。
 ある例を思い出す。リングアナウンサーが採点を読み上げたとき、あるジャッジの採点にミスがあったことが明らかになった。テレビの解説者はそのジャッジを批判した。解説者はそのジャッジがその採点よりもっと点数を加えるべきだった、と誤った知識でコメントした。その解悦者は、スコアカードが毎ラウンド終わるごとにレフェリーに渡され、トータルの集計は他の者により行われることを知らなかったのだろう。

1.ポイント:あなたのそのラウンドの採点を書き入れる。
2.反則による減点:レフェリーがとった減点を書き込む。
3.集計:採点の総計から反則の減点を引く。
4.減点:レフェリーが反則のため減点したポイントを引く。
5.最後の集計:ポイントの総合計から反則のポイントを引く。

 自分がつけたスコアカードのコピーをとり、あなたが最初に採点した試合を判定するために使う。その際、できるだけ採点の指針に沿い、集中力を最高にすることが重要である。採点の基本が分かったら、あなたは自分の家でプロ・ボクシングのジャッジをすることができるようになる。

訳者あとがき

1.「変化する採点」の補足説明
 どの本にも骨丁がある。この本の骨丁は、「採点の変化を追え」で書かれた「変化する採点running score」である。本書の文章のみによる説明では分かりにくい。そこで、訳者が図を用いて補足説明しよう。図を見るだけでも一目瞭然であろう。

公園のシーソーを想いうかべる。子供のころ遊んだギッコンバッタン互いに上下するシーソーである。シーソーが分からない人は割りばし(あるいは赤色と育色が半分ずつの色鉛筆)の真中に指を当て、その端を上下に揺らす場面を想像する。

一番上の図を見る。
左右水平の場合、イーブン(互角)10-10。
やや一方に傾いた場合、僅差10-9。
さらに一方に傾いた場合、明白な差これも10-9。
さらに大きく一方に傾いた場合、圧倒的な差10-8。
頭の中に、シーソーを想いうかべてラウンド開始を待つ(集中力のない人は実際に割りばしか色鉛筆を手に持つといい)。
①ラウンド開始。互いに手を出し合っていないからイーブン10-10。
②選手Aが攻め始め、軽いパンチだがクリーンヒットする。この瞬問では、Aがやや優勢で、Aの僅差による10-9。
③今度は、選手BがこのラウンドにおけるAと同程度の効果の反撃をする。この瞬間では、Bが持ち直し、シーソーは水平の位置にもどり、イ
ーブン1O-10。
④Bがさらに攻め込み、Bがやや優勢。この瞬間では、Bの僅差による9-10。
⑤またAが④のBの攻勢に相当する程度の効果の反撃をする。またシーソーは水平の位置にもどり、イーブン10-10。
⑥Aがまた攻勢をとり、やや優勢。この瞬間では、Aの僅差による10-9。
⑦Aがさらに攻勢をとり、Aの優勢は明白となる。この瞬間では、Aの明白な攻勢により10-9。現行の10点法では、「僅差」も「明白な差」も10-9である。しかし、この「変化する採点」、つまりシーソー・ゲームではシーソーの傾きで一段階、差がある。
⑧Aがさらに攻勢をとり、ノックダウンこそないが相手に相当なダメージを与える。この瞬間では、Aの圧倒的な差による10-8。ここで、ラウンド終了のゴングが鳴るとする。ただちに10-8と採点できる。ラウンドを振り返る必要はない。

 世界中の大多数のジャッジがこのラウンド中の瞬間、瞬間で変化する採点(running sore)の方法をとっている。だから、プロのジャッジはラウンド終了のゴングが鳴るやいなや、スコアカードに書き込める。ただし、この「変化する採点法」をフルラウンド実行するには、集中力を持続するトレーニングを要する。
 よく採点について文句をいうファンがいるが、採点基準にっいてどの程度の知識を持ち、さらにどの程度、集中してその試合を見ていたか、自分で振り返ってみるといい。ワン・パンチ見落とせば、そのラウンドの採点が違ってくる場合もあり得る。
 ジャッジがこの「変化する採点法」をとる場合、昔、よくいわれていた「ラスト30秒、攻め込んだ方が採点で有利だ」という常識は通用しなくなる。ラスト30秒は、「変化する採点」の積み重ねの中での30秒にしかすぎない。2分30秒、手を出さず守勢に回り、最後の30秒だけ攻めても(その最初の2分30秒の劣勢を上回る有効な攻勢をとらなければ)ポイントは得られない。この点は、セコンド、テレビ解説者、アナウンサーも銘記すべきだ。時代は変わっている。解説者が昔の常識、知識でテレビ採点をいうと、視聴者をまどわせ、判定に対する世論を誤った方向に導きかねない。

2.10-6をつけてよいのか

 著者カズマレックに質問をした。そのひとつが、本書にある10-6の採点である。現行のWBC,WBA統一ルールでは、採点の差の上限は10-7である。われわれはそう了解している。しかし、カズマレックはこう主張する。
 「3ノックダウン・ルールの試合では、同じラウンドで2度ノックダウンがあった場合、10-7。これが上限だ。しかし、フリーノックダウン・ルールでは、同一ラウンドに3度のダウンがあっても試合が続行されることがある。その場合、2度ダウンと3度ダウンで差をつけるべきだ。それが、10-7と10-6の差になる」
一応、この説明を受け入れておこう。ただし、現在(2001年9月時点)、日本におけるWBA,WBC共通ルール、および日本国内ルールでは「3
ノックダウン・ルール」を採用しているので、あるラウンドの採点の上限は10-7である。補足として、「フリーノックダウン・ルール」について誤解している人がいるように思うので、ここで確認しておきたい。「フリーノックダウン・ルール」とは、ダウンが起こった場合の処置をレフェリーの判断に任せるルールだ。すなわち、ダウンー度でもレフェリーが危険と判断すれば、試合をストツプしてよい。逆に、軽いダウンが3度あっても、ダウンされた方の選手がそのラウンド以前にダウンを奪い圧倒的優勢であった場合など、レフェリーの判断しだ
いで続行させていい。そういうルールだ。無制限に何度ダウンしても試合は続行される、という意味で
はない。
 「3ノックダウン・ルール」についても、一部の関係者は誤解している。「3ノックダウン・ルールなのに、2度目のダウンで試合をストップされた。けしからん」という負け惜しみは通用しない。なぜか。「3ノックダウン・ルール」は、「同じラウンドに同じ選手に3度のダウンがあれば、そこで試合を終了する」という意味で、「どんなひどいダメージのダウンを食っても、3度目のダウンまでは試合を止められ
ることがない」という意味ではない。「3ノックダウン・ルール」であっても、レフェリーの判断しだいで、2度以下のダウンでも、あるいはダウンがなくとも、ストップされる場合があり得る。

3.スコアカードとスコアシート

 原文を変更して訳すのは問題がある、と思い、そのまま訳出した。だが、ジャッジがラウンドごとに採点するカードが「スコアカード」であり、各ラウンドの採点を集計のため記載した採点表は「スコアシート」と呼べば、両者を区別できる。著者カズマレックはその両方をスコアカードと呼んでいるので、説明がまぎらわしくなっている面がある。

4.現行の10点法に対する提言

(1)レフェリーのミスジャッジを自動的に反映すべからず
 本書では、「ジャッジはレフェリーを出し抜いてはいけない。レフェリーがノックダウンと判断したら、それはノックダウンとして採点されるべきだ」と、旧態依然の常識を述べている。
 明らかにスリップダウンなのにレフェリーがノックダウンと誤認してカウントをとった場合、いかにレフェリーに権限を委任しているからといって、そのまま10-8と採点するのが妥当だろうか。こんな非常識を常識としているから、誤った採点が横行する(ルールには則しているのだろうが)。
 提言の第1として、レフェリーのノックダウン宣言にもかかわらず、それが「明らかなスリップダウンだ」とジャッジが判断した場合、それをノックダウンとみなさず採点すべきだ、と思う。
 レフェリーのいかなる判断もそれを採点に反映するというのは、レフェリー1人が勝敗決定の権限を持っていたボクシング黎明期の名残りなのだろうが、それは旧い。ジャッジに是正機能を持たせるべきだ。確かに、これを実行すると、コーナーのポイント勘定に影響が出るだろう。しかし、レフェリーの明らかなミスにジャッジ3名が疑問を感じながら10-8と自動的に採点するよりは公正であろう。

(2)ノックダウンのダメージの軽重を考えるべし
 ワン・ツーがヒットする。たまたまバランスをくずしていたのでグローブがキャンバスに触れる。足の裏以外の部分がキャンバスに触れればノックダウンなので、ダウンをとる。一方、痛烈なパンチで相手をキャンバスにのばし、その倒された選手は辛うじて立ち上がり試合続行という場合もある。
 ノックダウンなら何が何でも自動的に10-8というのは、おかしい。ノックダウンのダメージの軽重を考慮すべきだ、と思う。
 たとえば、ラウンドの最初に選手Aのグローブがキャンバスに触れたようなダウンがあり、ラウンドの中盤は互角で、ラウンドの最後にBが痛烈な逆転のノックダウンを食ったとする。ノックダウンは自動的に10-8で、お互いダウン一度で、そのダウン以外の展開は互角だから現行ルールでは10-10となる。
 これは極端な例だろうが、それはおかしい。ダウンのダメージに軽重をつけ、Aの10-9とすべき、と思う。
 「ノックダウンは野球におけるホームランだ」とスライマンWBC会長や著者カズマレックはいうが、すべてのノックダウンがホームランではない。
 「ノックダウンに軽重をつける」という進歩的前提をとるならば、本文の「試合を採点する」の項において、著者カズマレツクが「軽いダウンを食った方がダウンシーン以外で相手を攻めノックアウト寸前に遣い込んだ場合、ダウンを食った方が10-9でラウンドをとる」という説明は容認できる。しかし、現行の「ノックダウン至上主義ルール」の下では、この説明には矛盾がある。

(3)10点法の差を拡大すべし
 本書は現行の10点法の説明としては、よく書かれている。しかし、現行の10点法自体に問題がある。それは、「僅差の場合」と「明白な差の場合」が同じ10-9である点だ。10 POINT MUST SYSTEM とは、「10点満点法」という意味だ(必ずどちらか一方に振り分けねばならないシステムという意味ではない。それは単なる運用の傾向である)。満点が10点なのに、10-9を「僅差 slight margin」と「明白な差 clean margin」両方に割り当てているため、観客の印象とジャッジの採点とに差異が生ずる。(参考までに、圧倒的な差は英語で overwhelming margin という)。

 試案がある。折角、10点満点なのだから、差を有効に使う。
すなわち、
①僅差10-9
②明白な差、あるいは軽いノックダウン10-8
③相当のダメージを伴うノックダウン1度10-7
④相当のダメージを伴うノックダウン2度10-6
⑤相当のダメージを伴うノックダウン3度10-5
 確かに、現行ルールとの違いのため、変化は出てこよう。たとえば、従来、ダウンをー度奪われると、10-8で2ポイント失っていた。これに追いつくためには、僅差のラウンドを2つ取ればよかった。しかし、相当のダメージを伴うノックダウンが10-7となれば、3ポイントの差が生まれる。僅差のラウンド支配では、追いつくのに3ラウンドを要する。しかし、ものは考えようだ。明白な差のラウンド10-8を2つ取れば、4ポイント稼げる。10-7の差、3ポイントの失点を上回ることも可能だ。
 ここは、「点差拡大論」に固執するのが本意ではない。これは単なる試案だ。要は、現行ルール運用において、各ラウンドを独立した戦い(採点の単位)とみなして僅差のラウンドも一方の選手に振り分け、さらに「僅差」も「明白な差」も一律10-9につけることに根本的な問題がある、と指摘したいのだ。

(4)10点法をもっと分かりやすくすべし現行ルールの下で、この問題に対処する方法は、3つある。
①「明白な差」のラウンドは10-9とするが、「僅差」は10-10とする。つまり、世界的傾向に反し、10-10を積極的に容認する。
②あるいは振り分け採点を容認する代わりに、「僅差」をどちらかの選手に振り分ける基準を詳細に明文化し、観客、テレビ視聴者にもその基準を啓蒙、徹底する。
③観客、テレビ視聴者に対し、「ボクシングを見るときは、必ず自分で採点をつけ集計しましょう。
漠然と見ていると、印象と違う結果が出ることが多々あります」と、パンフレットに明記するか、テレビ放送の最初に断る。
 確かに、①はひとつの解決法だ、と思う。しかし、日本国内の試合では10-10許容採点、世界戦では振り分け採点となると、同じ10点法でありながら二重標準(double standard)が生ずることになる。日本国内の試合の放送と世界タイトルマッチの放送とで採点基準が違うことになり、一般視聴者がとまどうことになる。日本が先頭に立って、「10-10を復活させよう」という運動を起こし、世界の採点基準を変更させる方法もある。だが、世界のボクシング地図における日本の発言力はごく小さい。日本にそれだけの啓蒙力、外交力はない。
③は、現行の10点法をファンに徹底するにはいい方法かもしれない。実際、自らメモを持って採点し、微妙なラウンドをどちらか一方に振り分ける「心中のサイコロころがし」をしないと、世界戦の勝ち負けが分からないほど、10点法の運用は複雑になっているのだから。しかし、「紙を持ち採点しましょう」という勧告が全観客、全テレビ視聴者に徹底するかどうか、それは疑問だ。いまボクシングの勝敗決定システムは、この格闘競技を長く見つづけているマニアにしか理解できない複雑なものになってしまっている。それは事実だ。

(5)微妙なラウンドを振り分ける基準の試案
 何事も敗北主義はよくない。何か方法はあるはずだ。前述した「微妙なラウンドを振り分ける基準の明文化」を試みてみよう。
①互いに有効なクリーンヒットが皆無または同等のラウンドは、より多く手数を出した方がポイントをとる。
②一進一退の末、有効打も手数も同等なラウンドの場合、3分間のうち、より長い時間、主導権をとった方がポイントをとる。
③ジャブは軽打でも相手にクリーンヒットすれば、ポイントとなる。ただし、ジャブの強さにより、クリーンヒットしたジャブ何発が相手の右強打一発に相当するか、のダメージ比較判断をする。
④選手Aがジャブだけでラウンドの主導権を握り、選手Bの攻撃を完全に封じた場合、Aがポイントをとる。
⑤選手Aがジャブでラウンドの主導権を握り、選手Bはそのジャブを完全にブロックし、まったくダメージを受けず、逆に一発だけAにクリーンヒットを当て相当のダメージを与えた場合、たとえ一発であろうとその有効なクリーンヒットのため、選手Bがポイントをとる。クリーンヒットしないパンチの手数より、たとえ手数が少なくてもクリーンヒットしたパンチの効果をより高く評価し、ポイントを振り分ける。
⑥選手Aが単発の強打を打ち、選手Bがコンビネーション・ブローを打つ場合、あくまでクリーンヒットの効果(相手に与えたダメージ)を見る。グローブの上から打った選手Bの手数を過大評価してはならない。ただし、両者が相手に与えたダメージが同等な場合、手数の多い方が攻勢点で上回ったと見て、ポイントを振り分ける。
⑦有効なクリーンヒット、手数において両者が同等な場合、より優れた防御技術を発揮した方がポイントをとる。ただし、防御技術においても同等な場合、リング・ジェネラルシップで比較する。この場合、リング・ジェネラルシップとは、ボクサー型とファイター型の対戦の場合、どちらがより自分のぺースでより長い時間、ラウンドを支配していたか、を指標とする。ボクサー型とボクサー型の対戦、あるいはファイター型とファイター型の対戦の場合も同様で、どちらがより自分のぺースでより長い時間、ラウンドを支配していたかで、ポイントを振り分ける。
⑧ダメージは全身で測る。すなわち、打ちつ打たれつの激闘でどちらの攻撃がより有効であったかの判別に迷う場合、ダメージは全身に現れることを銘記する。すなわち、パンチを受けたときの全身の反応につねに注目し、そのラウンドにおけるダメージの差を測り、ポイントを振り分ける。
⑨「攻勢」とは「前進」ではない。攻勢とは、「パンチのコネクション(ヒット)」である。選手の前進を攻勢と勘違いしてはならない。ジャブ、攻め込んだパンチ、カウンターパンチ、ボディブローなどすべてのクリーンヒットを総合し、その有効度の集積における微妙な差を測り、ポイントを振り分ける。
⑩ラウンドの最初のー分と最後のー分は同じ価値を持つ。終盤の攻撃に目をとられ、それを過大評価してはならない。

(あなたもジャッジだ TVファンのためのプロ・ボクシング採点法 WBC審判委員長 トム・カズマレック 著 ジョー小泉 訳 から引用)